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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)6276号 判決

原告(反訴被告)

友田美紀

被告(反訴原告)

工藤正勝

被告

工藤正俊

主文

一  被告工藤正俊は、原告(反訴被告)に対し、金四〇万円及びこれに対する平成二年五月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)工藤正勝に対し、金一七万七五九〇円及びこれに対する平成六年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)の被告(反訴原告)工藤正勝に対する請求、被告工藤正俊に対するその余の請求をいずれも棄却し、被告(反訴原告)工藤正勝の原告(反訴被告)に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告工藤正俊、被告(反訴原告)工藤正勝の負担とし、その余を原告(反訴被告)の負担とする。

五  この判決は、原告(反訴被告)、被告(反訴原告)工藤正勝各勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

1  被告工藤正俊は、原告に対し、金四九二万六三四八円及びこれに対する平成二年五月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告工藤正勝は、原告に対し、金四一二万六三四八円及びこれに対する平成二年五月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

反訴被告(原告)は、反訴原告(被告工藤正勝)に対し、金六七万五三〇〇円及びこれに対する平成六年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交差点における右折車と対向直進車との衝突事故において、右折車を運転し、車両に損傷を受けるとともに受傷した者が直進車運転者に対し民法七〇九条に基づき、その保有者に対し自賠法三条に基づき、損害賠償請求した事案(本訴)と損傷を受けた直進車の所有者が右折車運転者に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償請求した事案(反訴)である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認定できる事実を含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成二年五月五日午後一時四五分ころ

(2) 発生場所 大阪市北区西天満四丁目一五番一〇号先路上(以下「本件交差点」という。)

(3) 関係車両

〈1〉 被告工藤正俊(以下「被告正俊」という。)運転、同(反訴原告)工藤正勝(以下「被告正勝」という。)保有の普通乗用自動車(千葉五二み五〇八二、以下「被告車」という。)

〈2〉 原告(反訴被告、以下「原告」という。)運転の普通乗用自動車(神戸五三も五九八二、以下「原告車」という。)

(4) 事故態様 本件交差点を東から西に直進通過中の被告車の前部と西から南に右折しようとした原告車左側面が衝突したもの

2  原告の受傷、後遺障害(甲四ないし七、一七、検甲一ないし五)

原告は、本件事故により、頭部外傷Ⅱ型、前額部挫滅創、頸部捻挫、左肋骨弓骨折、左腰部挫傷、左腎損傷、左腎機能障害の傷害を負い、救急車で総合加納病院に搬送され、平成二年五月五日から同月七日まで三日間通院(実日数三日)し、その後、芦屋セントマリア病院に同月八日から同年六月一六日まで四〇日間入院し、退院後平成三年二月六日まで通院(実日数一九日)し、同日症状固定とされた。

原告には左前額部に長さ約四・五センチメートルと五センチメートルの二本の線条の瘢痕が残存し、自賠責保険において一二級一四号に該当すると判断された。

3  被告正勝の責任原因

被告正勝は被告車の保有者であるから、同人は自賠法三条により本件事故による原告の損害について賠償責任を負う。

4  原告の損害の填補

原告は、自賠責保険から二八八万八五三四円の支払を受けた。

二  争点

1  原告、被告正俊の過失の有無、過失相殺

(1) 原告

本件事故は、信号機により交通整理の行われている本件交差点を東から西に向かつて直進通過するにあたり、その信号表示を確認して信号表示に従つて進入すべき注意義務があるにもかかわらず、被告車を運転する被告正俊がこれを怠つて、対面信号が赤であることに気づかず進入したため発生したもので、被告正俊は民法七〇九条により、原告の損害について賠償責任を負う。

なお、原告は、原告車を運転して西から本件交差点に進入し、南に右折する際、同交差点内の右折専用車線内で一旦停止した後、対面信号が右折可の矢印信号となつたのを確認して右折進行したものであるから、過失はない。

(2) 被告ら

本件事故は、原告が対面直進してきた被告車の動静に対する注視義務違反、ハンドル・ブレーキ操作不適当の過失により発生したもので、原告は、民法七〇九条により、被告正勝の損害について賠償責任を負う。

2  損害額(とくに、原告の後遺障害による逸失利益)

第三争点に対する判断

一  原告、被告正俊の過失の有無、過失相殺

1  証拠(甲二、三、原告本人、被告正俊本人)によれば、ひとまず、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、東西に延びる時速四〇キロメートルに速度規制された片側各四車線の道路(以下「東西道路」という。)と南北に延びる道路(本件交差点から南は南行き一方通行の道路、以下「南北道路」という。)とが交差する、信号機により交通整理の行われている十字型交差点である。

本件交差点の信号周期は不明であるが、東西道路の東行車線は対面信号が赤色を示すと右折矢印が表示されるようになつている。

本件事故現場は市内の中心部にあつて普段の交通量は頻繁であるが、本件事故当日は休日でもあり、普通であつた。

(2) 被告正俊運転の被告車が時速約六〇キロメートルの速度で東西道路を東から西に直進中、右折のため一旦停止後発進して右折中の原告運転の原告車左側面と被告車前部が衝突した。

2  そこで、本件交差点の信号の表示について、検討する。

(1) 被告正俊は、事故当日になされた実況見分(甲二)において、「先行車〈A〉の後方を進行中の〈1〉点で対面信号の青色を確認した。〈1〉点から二一・五メートル進行した〈2〉点で前方五三・一メートルの〈ア〉点の原告車を発見した。〈2〉点から三二メートル進行した本件交差点内〈3〉点で〈ア〉点から八メートル右折進行してきた原告車を一四・八メートル前方の〈イ〉点に発見し、危険を感じてブレーキをかけた。〈3〉点から一二・八メートル進行した〈4〉点で〈イ〉点から四・四メートル進行した〈ウ〉点の原告車と〈×〉点で衝突した。衝突後、被告車は〈5〉点、原告車は〈エ〉点に停止した。」と指示説明し(前記地点の表示はいずれも別紙図面(1)による。)、その本人尋問においても同様の供述をしつつ、本件交差点進入時の対面信号表示は青色であり、〈2〉点で原告車を発見した際には原告車に先行する車両はなかつた旨付加するところである。

(2) 他方、原告は、事故後二か月を経た平成二年七月二日になされた実況見分(甲三)において、「先行車〈A〉の後方の〈1〉点で停止した。対面信号が黄色に変わり、先行車は右折進行したので、〈1〉点から五・一メートル進行して〈2〉点で少し停止し、前方六六・九メートルの〈ア〉点の被告車を発見した。〈2〉点で対面信号が右折矢印に変わつたので右折進行した。〈2〉点から一〇・六メートル進行した〈3〉点で〈ア〉点から五一・七メートル進行してきた被告車を八・二メートル東の〈イ〉点に発見し、危険を感じた。〈3〉点から〇・五メートル進行した〈4〉点で〈イ〉点から八メートル進行した〈ウ〉点の原告車と〈×〉点で衝突した。衝突後、原告車は〈5〉点に停止した。」と指示説明し(前記地点の表示はいずれも別紙図面(2)による。)、その本人尋問においても同様の供述をするところである。

(3) 原告、被告正俊の前記指示説明、本人尋問によれば、原告車が本件交差点で右折するにあたり、交差点の中心付近で一旦停止していたこと、被告正俊が原告車が停止していたことを確認しつつ、発進しないとしてその動静に注視しないで本件交差点に進入したことが認められ、かかる事実に照らすと、被告正俊が本件交差点進入前の(1)〈1〉点(別紙図面(1)の〈1〉点、以下同様)付近で少なくとも対面青信号を確認したことが認められる。しかしながら、原告も被告車が本件交差点に手前まで進行してきたのを(2)〈2〉点で確認しながら、被告車は停止すると見込んで、その動静を十分確認することなく右折したことも認められ、これによれば、被告車と衝突する前に原告が一旦停止後右折のため発進した際の対面信号が青であつたとは認め難いというべきであり、かかる双方の供述、指示説明を総合すると、被告車が本件交差点に進入する際には対面信号は黄色表示を示していたと認めるのが、双方の確認状況、走行状況と矛盾がないというべきである。右認定に反する原告及び被告正俊の供述部分、指示説明記載部分は採用できない。

右によると、被告正俊、原告のいずれにも、互いの車両に対する動静不注視の過失が存し、これによつて本件事故が発生したものと認めることができる。

(4) 右の道路状況、原告の走行中の被告車の動静に対する注視義務違反、被告正俊の原告車に対する動静注視義務違反と制限速度を約二〇キロメートル超過した速度違反を総合考慮すれば、双方の過失割合は、原告三、被告正俊七と認めるのが相当である。

二  原告の損害額(各費目の括弧内は原告ら請求額)

1  治療費(二八万二一〇六円) 二八万二一〇六円

原告の受傷、治療経過については前記のとおりであるところ、証拠(甲七ないし一三、原告本人)によれば、治療費(文書料を含む。)として、総合加納病院で七万五〇〇〇円、芦屋セントマリア病院で二〇万七一〇六円の合計二八万二一〇六円を要したことが認められる。

2  付添看護費(三万八五〇〇円) 三万一五〇〇円

証拠(甲六、二〇、原告本人)によれば、原告は、芦屋セントマリア病院での入院当初、頭部打撲、肋骨骨折のため絶対安静を要し、医師も一週間程度付添看護の必要性を認め、原告の母親が一週間付き添つたことが認められるところ、一日当たりの付添看護費として四五〇〇円が相当であるから、三万一五〇〇円となる。

3  入院雑費(五万二〇〇〇円) 五万二〇〇〇円

前記のとおり、原告は本件事故による受傷のため、平成二年五月八日から同年六月一六日まで四〇日間芦屋セントマリア病院に入院したものであるところ、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円が相当であるから、五万二〇〇〇円となる。

4  入通院交通費(三万七一七〇円) 三万六七四〇円

前記争いのない事実に加え、証拠(甲一四の2、4、8ないし11、原告本人)によれば、原告は、総合加納病院に救急車で搬送され、受診した後、帰宅し、五月六日、七日と通院したが、その際タクシーを利用し、片道少なくとも五〇〇〇円を要し、二万五〇〇〇円を要したこと、芦屋セントマリア病院の入退院時、平成二年六月二九日までの二回の通院にタクシーを利用し、合計四五二〇円を要したこと(前記受傷程度に照らすと、右の程度のタクシー利用はやむを得ないものと是認することができる。)、その後の通院、後遺障害診察、診断書受領のための通院が一九往復であり、一往復あたりのバス代が三八〇円、合計七二二〇円を要したことが認められる。そうすると交通費の合計は三万六七四〇円となる。

5  休業損害(二六万円) 二六万円

証拠(甲一五、原告本人)によれば、原告は本件事故当時二三歳(昭和四二年二月二六日生)で、歯科医院で受付事務員として稼働し、本件事故前三か月は毎月一三万円の給与を支給されていたこと、本件事故により、本件事故後平成二年六月三〇日まで休業を余儀無くされたこと(なお、五月は連休のため、医院は休業していたため、五月は結局一か月休業したことになる。)が認められる。右によれば、原告の休業損害は二六万円となる。

6  逸失利益(一六五万二五三九円) 〇円

前記のとおり、原告には左前額部に一二級一四号の後遺障害が残存したものであるが、本件事故当時既に就職し、その労働に支障を来したことはなかつたものであり、また、右の瘢痕は前髪で隠れるものであることによれば、確かに、原告がアトピー体質で化粧により右瘢痕をカバーできず、多大な精神的苦痛を感じ、勤務先を退職したことは認められるものの、労働能力を一部でも喪失したと認めることはできない。右の精神的苦痛は慰謝料算定に当たり斟酌すれば足りる。

7  入通院慰謝料(一六五万円) 九〇万円

前記認定の原告の傷害の部位、程度、症状固定までの入通院期間、実通院日数等の事情を総合勘案すると慰謝料として九〇万円が相当である。

8  後遺障害慰謝料(二四〇万円) 二五〇万円

原告の後遺障害の程度、原告が後遺障害が苦痛となつて勤務先を退職したこと等によれば、慰謝料としては二五〇万円が相当である。

9  人身損害の小計

右によれば、原告の損害は、四〇六万二三四六円となるところ、前記過失相殺により三割の控除をすると、二八四万三六四二円となり、前記自賠責保険支給分二八八万八五三四円により、人身損害については既に填補されていることになる。

10  物損(八〇万円) 三五万円

証拠(甲一六、一八、原告本人)によれば、原告車は昭和五六年三月初年度登録されたフオルクスワーゲンで、原告が平成元年八月ころ一一八万円で購入したこと、本件事故による損傷程度がひどく、廃車としたことが認められる。ところで、原告車の時価額を算定するに当たつては、原則として、同一の車種、年式・型、同程度の使用状態等の車両の中古車市場における価額により認定すべきであり、会計学上の観念的処理としての減価償却の方法である定額法によつて直ちに算定することは相当でないというべきである。

本件車両はその年式が古く中古車市場価格が判明しないものであるが、なお使用に耐え、原告が前記価格で購入したこと、購入して一年も経過していないことなどの諸事情を勘案すると五〇万円と認めるのが相当である。

前記過失相殺による三割の控除をすると、その損害は三五万円となる。

11  弁護士費用(六四万二五六七円) 五万円

本件事故と相当因果関係の認められる弁護士費用相当の損害額は五万円と認めるのが相当である。

三  被告正勝の損害

証拠(乙一の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、被告車は本件事故による損傷の修理費として消費税を含み五二万五三〇〇円を要したことが認められ、前記過失相殺により七割の控除をすると一五万七五九〇円となるところ、本件事故と相当因果関係の認められる弁護士費用相当の損害額は二万円と認めるのが相当であるから、その損害は一七万七五九〇円となる。

四  まとめ

以上によると、

1  原告の請求は、被告正俊に対し、四〇万円及びこれに対する不法行為の日である平成二年五月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

2  被告正勝の請求は、原告に対し、一七万七五九〇円及びこれに対する反訴状送達の日である平成六年六月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 髙野裕)

別紙図面(1)

〈省略〉

別紙図面(2)

〈省略〉

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